【著者プロフィール】
●労働基準オンブズマン
- 脇田 滋(わきた・しげる)龍谷大学教授
- 松丸 正(まつまる・ただし)弁護士・堺法律事務所
- 岩城 穣(いわき・ゆたか)弁護士・あべの総合法律事務所
- 下川和男(しもかわ・かずお)弁護士・下川和男法律事務所
- 片山文雄(かたやま・ふみお)弁護士・木村・浦川法律事務所
- 高木吉朗(たかぎ・きちろう)弁護士・大阪中央法律事務所
●労働基準オンブズマンとは
過労死を生み出す労働基準法、労働安全衛生法違反を労働の現場から一掃し、働く人々の生命と健康を守る市民団体として2001年に結成されました。
過労死事件の被災者・遺族、ならびに過労死を生み出すおそれのある職場の労働者、その家族らによる、労働現場の労基法違反等の違法行為に対する告訴・告発に助言・協力するとともに、その代理人として告訴・告発を行なっています。
●労働基準オンブズマンへ相談するには
所定の相談カード(下記のホームページからプリントアウトしてください)に、必要事項を記載し、以下の宛先までファックスまたはE-mailでご送付ください。担当の弁護士を紹介します。相談料は無料です。
◆宛先
【著者からのメッセージ】
人間らしい労働と生活のために
★労働基準オンブズマンとは
私たちは、2001年6月、大阪で「労働基準オンブズマン」の活動を始めることにしました。もう二度と「過労死」や「過労自殺」の悲劇を繰り返してはならないという切実な思いからです。
日本では、1980年代以降、労働者が働きすぎて心臓・脳疾患で亡くなるという過労死が問題になってきました。21世紀に入った現在、過労死は無くなるどころか、ますます増加しています。とくに、過労が原因となっての自殺、過労自殺も増えています。
過労死をめぐる労災申請や裁判も増えています。その職種も、トラック、タクシー、バスの運転手、証券外務員、営業職、銀行・金融機関職員、広告代理店社員、新聞・雑誌編集者、テレビ番組制作者、進学塾講師、SE、プログラマー、国・自治体の公務員、学校教員、小学校長、保育士、消防士、警察官、研修医、デザイナー、設計技師、工事の現場責任者、測量会社社員、中間管理職、フリーカメラマン、派遣労働者……と実に広い範囲に及んでいます。
年齢層も、40歳、50歳といった働き盛りの年齢だけではなく、最近では、23歳や24歳といった、働いてまだわずかな期間にしかならない若い人にも広がっているのが特徴です。
たしかに、過労死・過労自殺をめぐって事後的な労災認定、裁判を通じての原因究明、さらに補償・賠償は重要な意味をもっています。しかし、何より大切なことは過労死・過労自殺の悲劇をこれ以上生み出さないことだと思います。「過労死110番」の相談活動でも、「このままでは夫が過労死しそうだ」「長時間のサービス残業が当たり前になっている」「何とか娘の今の無茶苦茶な働き方をやめさせたい」などと、過労死をしたくない、させたくないという本人や家族からの相談が増えているのです。
労働者は、人間として健康に働く権利をもっています。第2次大戦が終わってすぐ1947年に制定された労働基準法は、その第1条で 「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と定めています。また、この労働基準法から分かれて、労働安全衛生法が労働者の健康や安全を守るために1972年に制定されました。
労働基準法は労働条件の最低基準を定めたものです。「労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」(1条2項)と規定しています。
労働安全衛生法1条は、職場における労働者の安全と健康を確保し「快適な職場環境の形成を促進すること」を目的とすると明記しています。こうした労働基準法や労働安全衛生法がしっかりと守られていれば、過労死や過労自殺が生ずることはありません。しかし現在の日本では、多くの職場で労働基準法や労働安全衛生法は最低基準ではなく「最高基準」となっているのが実態です。
労働基準法が定める労働時間の上限を守れない人員しか雇わず、違法なサービス残業をさせたり、有給休暇をとらせないことを前提にした人員配置さえ日常化しています。これは、使用者(企業や当局)の多くが労働基準を守らない労務管理政策をとってきたからです。中小零細企業だけでなく、大企業、さらには模範となるべき官公庁を含めて使用者が、労働基準法や労働安全衛生法に違反する労務管理をしている場合も少なくないのです。労働基準法違反は経営者のモラルにも反する恥ずべきことですし、違反は罰則をともなう重大な犯罪であることを認識しなければなりません。
人間らしい労働と生活を取り戻すために労働基準法や労働安全衛生法を守ることを当然の思想とすべきです。残念ながら政府は、こうした法定の最低基準を守らせるのに不熱心でした。法違反の蔓延に対して監督体制を整備するなど必要な取り組みをせず、過労死・過労自殺の広がりに手をこまねいてきました。むしろ、裁量労働制の拡大など、「規制緩和」の名目で法違反や監督不備を追認してきました。1日8時間労働を定めたILO1号条約さえ、いまだに批准していません。
違法状態が蔓延しているだけに、現行の労働基準法や労働安全衛生法を守らせるだけでもかなりの改善が勝ち取れます。過労死や過労自殺の悲劇を少しでも予防することが可能だと思います。労働基準オンブズマンは、こうした思いを共にする市民の自主的な活動です。労働組合や労働行政とは違って、まだまだ小さな組織です。力も不足しています。しかし、職場の現実という大きな壁にたじろぐことなく、個々の相談や小さな声にもできるだけ懇切に応じたいという強い思いに支えられたボランティアの活動です。一歩一歩、試行錯誤を繰り返しながら、波紋を広げていくつもりです。この波紋が大きく広がれば、世界でも異常な日本の職場の現状を変えるきっかけにできると思います。
★この本を作成した目的
労働基準オンブズマンが発足して、約10ヵ月間、まだまだ十分ではありませんが、すでにいくつかの活動を行ってきました。
まず、オンブズマン発足のニュースが流れてすぐ、全国各地から多くの問い合わせや相談が殺到しました。それに答えるために、電話相談の窓口(下川和男法律事務所)を設けて、相談を受けてきました。6ヵ月経過した2001年12月段階で、相談カードを送付した相談者数は122名、相談カードが返送されてきた数は42名に達しています。
次に、こうした相談を受けて、2001年9月には、7つの会社を労働基準法違反で刑事告訴・告発しました。このうち1社(日本ペイント)は告発を受けて、多額の未払いの賃金を支払い、職場では実際の残業時間も減少する結果を生んでいます。
さらに、2001年8月には、労働基準オンブズマンのホームページを立ち上げ、告訴・告発のための資料などを掲載しています。
しかし、多くの反響や強い期待があるのに、オンブズマンの活動は、まだまだ十分なものとは言えません。何よりも、労働基準法等の働くルールや、オンブズマンの活動についての広報が必要だと考えています。また、オンブズマンの活動を支えていただく、ボランティアの方々の参加をお願いする必要があると思っています。
そこで、
- これまでのオンブズマンの活動を書物のかたちにまとめ、より多くの人に知ってもらうこと
- 働いている人が泣き寝入りしないために必要な情報、とくに働くルールについての情報提供をすること
- 実際の職場の状況を改善するために行動を起こすときに必要な情報を提供すること
を、主な目的として、この本を出版することにしました。
★このようにして使って欲しい
まず、実際の職場での働き方のどこに問題があるかを考えるとき、働くルールとしての労働基準法などが定める最低基準の内容を知っておくことが重要です。そのために、職場では当然と思われている「働き方の常識」が、労働基準法等の規制に照らして、いかに非常識なものであるかをしっかりと認識することが必要です。
そこで、本書では、主に労働時間に関する基礎知識を解説し、相談のなかでよくある問題をQ&Aのかたちでまとめて示しています。
また、実際に労働基準法違反の職場や働き方を改善するための方法を詳しく掲載しました。関連した法令の条文、通達、文書の書式も添付していますので、労働者やその家族、労働組合など、誰でもが自力で直接に、労働基準監督署への申告や、労働基準法違反について、会社の責任者の告訴・告発をすることが可能となっています。
なお、「サービス」という言葉にプラスの意味があることから、「サービス残業」という表現には疑問もあるようです。本書では一般に普及している用語という理由で「サービス残業」という表現を用いています。しかし、そこには労基法に反する「違法残業」という意味が含まれていることを強調しておきたいと思います。
本書が、違法な「サービス残業」をなくすために少しでも役立つことを願っています。
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