【著者プロフィール】
脇田 滋(わきた しげる) 龍谷大学法学部教授(労働法、社会保障法担当)。1948年大阪市生まれ。76年京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得のうえ退学。96年よりホームページ「派遣労働者の悩み110番」を開設し、電子メールによる相談活動を開始する。労働分野と社会保障分野の「構造改革(=規制緩和)」をめぐる動向に強い関心を持って注目し、発言している。
http://www.asahi-net.or.jp/~RB1S-WKT/
【主な著書】
主な著書に、『労働法の規制緩和と公正雇用保障』(法律文化社)、『派遣社員の悩みQ&A』(学習の友社)、『規制緩和と労働者・労働法制』(編著、旬報社)、『派遣労働の法律と実務』(共編著、旬報社)、「雇用・就労保障と社会保障法」『講座社会保障第6巻 社会保障の関連領域』(日本社会保障法学会編)など多数。
【著者からのメッセージ】
働き方の違いを超えて
激増する派遣社員・契約社員
パートタイム労働と並んで、1980年代以降、派遣社員や契約社員など多様な非典型的な雇用・就労形態が急速に増えている。80年代には、労働行政がパートタイム労働を公認し(パートバンクの設置など)、1985年には、従来は違法であった労働者供給を一部適法化するために労働者派遣法(以下、派遣法と略称する)が制定され、派遣社員という働き方が認められることになったのである。1990年代になって、雇用状況の悪化やリストラの動きが強まり、従来の正社員雇用に代わって契約社員と呼ばれる雇用形態が生まれ、派遣社員とともに急速に拡大・進展してきた。
1999年6月30日、派遣法が改定され(新派遣法)、従来の「原則禁止・例外適用」から「原則自由・例外禁止」に大きく変わった。99年12月に施行された新派遣法から約2年が経った。その後、紹介予定派遣の制度も導入され、派遣で働く労働者が加速度的に増えている。2000年秋には、緊急な雇用対策の一環として新派遣法の一部見直しがあり、さらに3年後の見直しが前倒しで実施されようとしている。
派遣・契約社員の現実
派遣社員や契約社員は、働く者の希望に応えた新しいスタイルの働きかたであると宣伝されている。仕事や職場を自由に選ぶことができ、いやな上司やわずらわしい人間関係、長時間・過密労働や不本意な配置転換を拒否できること、色々な仕事を経験することで自分の視野やスキルを向上させることが魅力とされているようである。
しかし、派遣社員や契約社員の働き方や環境は、決して十分なものとは言えない。むしろ、長く働いたのに突然切り捨てられたり、待遇の点で報われないという思いを抱く、というのが実際の派遣社員や契約社員の共通した声となっている。雇用の安定や権利の保障という点からは、実に多くの問題を含んだ働きかたと言える。
派遣社員や契約社員については、十分な保護や格差是正の必要性が早くから指摘されてきた。また、1990年代には、ILO(国際労働機関)が非典型雇用労働者の保護を求める条約や勧告を相次いで採択している。同じ職場で同じように働いても労働条件が正社員より格段に低く、また、いつ職を失うかもしれない不安定雇用について、ILOは公正雇用に反する恐れが強いと考えて、その弊害を極力なくそうとしているのである。EU諸国の法制度も同様な考え方に立っているので、この点では、労働法の規制緩和を推し進めている日本の労働立法・労働行政のあり方は、国際的な労働者保護の流れに反するものと考えられる。本書の特徴―さまざまな相談事例から
私は、1980年代以降の非正規雇用の拡がり、とくに派遣社員や契約社員の働き方に強い関心を寄せてきた。民主法律協会派遣労働研究会に参加して、大阪地区での労働者からの相談を受けるとともに、1996年夏にインターネット上に「派遣労働者の悩み110番」のホームページ(http://www.asahi-net.or.jp/~RB1S-WKT/indexhkn.htm)を開設し、電子メールによる相談活動を開始した。全国から毎日のように相談メールが寄せられている。5年間に相談者は約3000人を超えた。派遣社員だけでなく、契約社員、嘱託、非常勤、個人事業主(業務請負)の方からの相談も少なくない。
また、1998年から2年間、京滋地区の私立大学教職組合連合の責任者を務めたときに、「大学教員任期制法」の問題や大学非常勤講師の雇用問題に取り組んだ。その経験から、契約社員などの問題を考える「有期雇用(期限付き雇用)」のページを開設することにした。 本書は、こうした相談や組合役員としての活動を元にして、派遣社員と契約社員をめぐる法律問題の基礎を解説している。新たな法改定の動きやその内容をできるだけ盛り込むようにした。とくに、働く者の側にたった実際の相談・回答例のなかから約30の事例を通して派遣社員や契約社員の疑問に答えている。
たしかに、現行労働法令の労働者保護規定はきわめて貧弱であるし、一層緩和する動きもある。しかし、消極的な行政機関も、労働者自身が粘り強くがんばることで法に従った改善をするように活用することが可能である。日ごろから自分自身を守る知識を身につけておけば、無用なトラブルを予防することにもなる。
過去の相談事例では、地域や職場の労働組合の協力を得たときには本来の解決に向かうことができた。是非、地域、業種、職場で労働者からの相談を受け止めようとする労働組合の相談担当者の方に本書を活用していただきたい。また、正社員の雇用が危機にさらされ、派遣社員や契約社員になる例が急速に増えている。正社員だけで雇用や労働条件を守れる時代ではなくなっている。雇用形態の違いを超えて本書を広く読んでいただければ幸いである。
なお、本書では、一般的な叙述のときには派遣社員という表現を使っているが、法的な説明の箇所では、派遣労働者という法律用語を使用している。
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