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環境問題の未来シリーズ3

里山はトトロのふるさと

2004/09/17

“宝物”を育てよう。里山を子どもたちのために!
自然と人間がつくった“宝物”=里山。
自然保護にかかわり30年余の植物生態学者が語る、
トトロのふるさと財団設立や自然保護の大切さ。

里山はトトロのふるさとの表紙:クリックすると大きくなります

廣井敏男+聞き手・山岡寛人 著

判型 A5判変型上製 124頁
定価 987円(本体940円+税)
発売日 2004年2月25日
ISBN4-8451-0862-3 C0036

【著者プロフィール】

廣井 敏男(ひろい としお) 1933年、群馬県生まれ。
東京大学大学院博士課程修了。専攻は植物生態学、理学博士。東京経済大学現代法学部教授。
雑木林の保護運動、自然保護運動にかかわって30年余、狭山丘陵でのナショナルトラスト運動は財団法人「トトロのふるさと財団」に結実し、その理事長を務める。財団の活動は、2002年「明日への環境賞」(朝日新聞社)を受賞。
大学所在地地域の総合研究を同僚とともに組織し、市民や学生にその研究成果を還元する講座「多摩学」を提供。
著訳書:『林のどんぐり』『雑木林へようこそ!―里山の自然を守る』(2001年、新日本出版)、『今日の地球環境』『多摩学のすすめT、U、V』(東京経済大学多摩学研究会編、1996年、けやき出版)、『自然保護の生態学』、D・ブリックスほか『植物の変異と進化』、レイ・ブロクターほか『世界の樹木』ほか。

財団法人トトロのふるさと財団の連絡先

山岡 寛人(やまおか ひろと) 1944年、東京都杉並区生まれ。
東京教育大学卒。現在、東京大学教育学部附属中等教育学校で、中学生・高校生に理科・生物を教える一方、自然・生物・環境にかかわって幅広く活動。
著書:『スギ林はじゃまものか』『くるま社会』『魚が恋する海』『よみがえれ いのちの川よ』『草も木も動いている』(ともに旬報社)、『中学生のフィールドワーク』(アリス館)、『環境破壊はとめられない!?』(ポプラ社)、『21中学授業のネタ 環境教育』(日本書籍)など多数。

【この本の特色】

 近年、「里山」という言葉が、広く使われるようになりました。人々をひきつけるその魅力とはなんでしょう。また、その価値とはなんでしょう。そして、その姿を生み出し維持してきた自然と人間とのいとなみを探ります。

 同時に、そうした関心の高まりの一方で、いま里山は、大きく変貌をつづけています。自然と人間のいとなみによって営々として築かれてきた情景が失われる危機にあります。それにたいして、さまざまなとりくみが行われています。

 著者は植物生態学者であるとともに、雑木林の保護運動、自然保護運動にかかわって30年余、狭山丘陵でのナショナルトラスト運動は、「トトロのふるさとを守る」運動として著名。里山の価値が深く学べ、その守り方の多くの示唆を得ることのできる本です。

【インタビューを終えて 山岡寛人

 かつて私は地域の変貌を次のようにまとめたことがある。

 台地上の林の経営・管理放棄→台地上の林・畑の消滅と住宅地・工業用地化→湧水の枯渇→河川の汚染・富栄養化→水田の休耕化→水田の埋め立て→埋立地の住宅化→河川の大規模な改修(コンクリート護岸→暗渠化)(「地域自然誌教育の手法」『日本の教師 第9巻』1993年・ぎょうせいに収録)

 このまとめは、私自身が子ども時代を過ごした東京の郊外と、いま暮らしている千葉県・下総台地での経験と観察から導き出したものである。この間の時間的な開きはおおよそ30年。最近では、林の変貌に産業廃棄物を含めたゴミの不法投棄がはさまってくることが多い。いずれにしても、地域の「自然」は台地上の林から失われていく。この林が「里山」であり、「雑木林」である。

 下総台地の郷土史、とりわけ民俗資料にたびたび出てくる「ヤマ」という言葉に違和感を抱いていた。だが、比高差にして、たかだか10mの斜面を上り下りしながら地域の植生調査を続けている間に台地は「ヤマ」なのだということがだんだんと納得できるようになってきた。台地を「ヤマ」と呼ぶのは、台地の下に連なる河岸段丘に住まいを構えている農家の人々による「雑木林」での生業の中で生まれてきた概念だからなのだろう。

 私の調査・研究のフィールドの一つであった「里山」で都市住宅整備公団による住宅開発がすすんでいる。巨大な重機が走り回り、台地と低地といった地形の原形は跡形もない。今はやりの「緑との共生」をうたった開発だが、「雑木林」が消滅しただけでなく、「ヤマ」そのものも消えてしまった。やがて新たに植栽された「緑との共生」が始まるのだろう。

 この間、手をこまねいていたわけではない。公民館での私の講座をきっかけに受講生の間に自然誌研究サークルが生まれた。市民が自らの手で植生調査や湧水・井戸等の調査を進めた。ささやかではあるが、地域の自然の価値を見つけ出した。いくつかの行事を企画し、地域の自然のすばらしさをガイドした。保全の手だての提言も行った。だが、私たちの実力は不足していた。また、市の財政難も向かい風になった。私たちは展望を見いだせないでいた。そして、サークルのメンバーの老齢化も進んでしまった。

 若い人たちの眼が「里山」に向かって欲しいと思う。できることなら地域の「里山」の守り手になって欲しい。こうした願いをかなえるには、展望のある実例を知ることが必要だろう。狭山丘陵の「里山」保全運動に学ぶべきだ。そう思った。

 だいぶ以前、ある研究会の席で廣井敏男先生から「里山」の話をうかがったことを思い出した。だがそれは、断片的な話だった。廣井先生は狭山丘陵の「里山」の保全運動に長年かかわってきた植物生態学者である。生物の教師である私にとって親近感がある。まとめて話をうかがいたいと思った。狭山丘陵の「里山」は宮崎駿監督のアニメーション『となりのトトロ』で描かれた景観のモデルとも言われている。そして廣井先生は「トトロのふるさと財団」の理事長でもある。

 廣井先生は快くインタビューに応じてくれた。インタビュー最後の法制度の話は少々難しかったかもしれない。この部分は廣井先生の著書『雑木林へようこそ!――里山の自然を守る』(2001年・新日本出版)、さらには公開講義の講義録「多摩の『緑』――昨日・今日・明日」『多摩学のすすめV――新しい地域科学の展開』(東京経済大学多摩学研究会編・1996年・けやき出版)に詳しい。ぜひともあわせて読み進めて欲しい。

 いま、書名を通して多摩学の存在を紹介した。多摩学は廣井先生が勤務する大学が立地している多摩地域の地域科学である。廣井先生は多摩学の生みの親の一人だ。『多摩学のすすめ1――新しい地域科学の創造』(1991年)で多摩学研究会の代表である柴田徳衛先生は「一つの『地域』という共通項を媒介に、政治・法律・経済・地質・動植物・歴史・経営…のあらゆる分野の研究を動員し、共同総合させ、その地域に住む民衆の意識や心性をトータルに究明していこうというのである」と述べている。多摩学は大学における学問のあり方に対する大きな問題提起でもあった。

 私は高校2年生を対象に理科の選択科目として「地域自然研究」という実験的な講座を開講している。この講座は学校が立地している中野区、もう少し広げると武蔵野台地という地域にこだわっている。理科の科目だからアプローチの手法は生物学・地質学といった自然科学の枠を意識せざるを得ない。だが、地域にこだわっていくとどうしても自然地理学といった隣接する科学、さらには民俗学、郷土史を中心とした歴史学へと視野が次々と広がり、越境せざるを得なくなってくる。このような教育実践は指導する教師だけでなく受講する子どもたちにとっても知的好奇心が喚起される。そして、創造的な教育活動に育つ。しかし、一人の教師では荷が重い。

 とりとめもない「総合学習」を意味あるものにするため、中等教育においても「多摩学」のような地域科学をカリキュラムの中に位置づけるべきなのかもしれない。そのためには地域の総合的な調査・研究は欠かせない。教育現場でなにを考え、行っていけばよいのか。「多摩学」の20年近くにわたる歩みは大きなヒントを与えてくれそうだ。廣井先生の話をうかがっていてつくづくそう感じた。

【目次】

1 里山ってどんなところ?

里山の生物多様性の意味――キーワードは「軽度の攪乱」

絶滅危惧植物の過半数は里山の植物

地域の人々の生活と農作業が生物の多様性を残した

自然に対する介入は慎重にせよ

雑木林の管理ボランティアが地域の交流を生む

里山とは何か――いろいろな定義

生態系・生物群集・環境

雑木林とは何か

雑木林――ぞうきりん・ぞうきばやし

「鎮守の森」の林

2 里山の知恵・里山の変貌

萌芽のさせ方にみる合理性

世界に向けて発信すべき混農林の知恵

雑木林はどのようにつくられたか

見放されていった谷津田、雑木林

谷戸の変化にともない消えていく動植物

谷戸の遷移をどう止めるか

雑木林の遷移を止める守り手はいるか

動植物の民俗名――「ウサギのお産隠し」

3 「トトロのふるさと」を守る

雑木林に魅せられて――クチナシグサの姿・コナラの芽吹き

団地開発に直面して――雑木林の保全運動に参加

早大新キャンバスがやってきた――「トトロの森」保全運動のはじまり

雑木林博物館構想

トトロの住む森を守る――ナショナルトラスト

4 地域を知って地域をつくる

多摩学の試み

都市農業のあり方を研究しなければならない

山村の自然保護をどうするか

子どもたちに学んでほしいこと

雑木林を教材として

自然保護は地域づくりとともに

法制度の問題は避けて通れない

後記

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