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環境問題の未来シリーズ2

魚が恋する海

2004/09/17

だから海を守りたい!
海に潜って38年、訪れた国は74ヶ国。
やはり日本の海はすごい。
東京湾の生き物はたくましい。

魚が恋する海の表紙:クリックすると大きくなります

中村征夫+聞き手・山岡寛人 著

A5判 上製 118頁
定価 987円(本体940円+税)
発売日 2004年12月10日
ISBN4-8451-0828-3 C0045

【著者プロフィール】

中村 征夫(なかむら いくお) 1945年、秋田県生まれ。写真家。株式会社スコール代表。
水中撮影をはじめて38年、74ヵ国の海を訪れている。個展や出版はもとより、ラジオ、テレビ、講演などの精力的な活動を通じて、海のすばらしさや環境などについて語りつづけている。1988年、第13回木村伊兵衛写真賞、1994年、第9回文化庁芸術作品賞、1996年、第12回東川写真賞特別賞、1997年、第28回講談社出版文化賞写真賞などを受賞。
主な著書・写真集:『全・東京湾』、『海中顔面博覧会』『海も天才である』(以上、情報センター出版局)、『ガラパゴス』『水中の賢者たち』(以上、集英社)、『カムイの海』(朝日新聞社)、『熱帯夜』(小学館)、『海の遊び方』(旬報社)ほか多数。

中村征夫ホームページ http://www.squall.co.jp

山岡 寛人(やまおか ひろと) 1944年、東京都杉並区生まれ。
東京教育大学卒。現在、東京大学教育学部附属中等教育学校で、中学生・高校生に理科・生物を教える一方、自然・生物・環境にかかわって幅広く活動。
著書:『スギ林はじゃまものか』『くるま社会』『里山はトトロのふるさと』『よみがえれ いのちの川よ』『草も木も動いている』(ともに旬報社)、『中学生のフィールドワーク』(アリス館)、『環境破壊はとめられない!?』(ポプラ社)、『21中学授業のネタ 環境教育』(日本書籍)など多数。

【インタビューを終えて 山岡寛人

 私は高校2年生を対象に理科の選択科目として「地域自然研究」という講座を開講している。この講座は中野区、もう少し広げると武蔵野台地、さらには東京都という地域にこだわりながら、フィールドワークを重視している。

 学校の近くを流れる神田川は重要なフィールドである。神田川は三面がコンクリートで護岸された典型的な都市河川である。水源である井の頭池や善福寺池を満たしていた湧水は今では枯れてしまい、地下深くからくみ出した井戸水で池が満たされている。池を満たしている水は水門で閉ざされ、川にはわずかの水しか落とさない。それでも学校の近くの神田川はかなりの水が流れている。川底から水が湧き出しているところもわずかにある。だが、水のほとんどは、家庭からの雑排水である。フィールドワークで水質を調べると、残留塩素がかなりあることからそのことが理解できる。橋の上からバケツを垂らして採水した水にご飯粒が入っていることもある。川底に段差のあるところでは、小さな滝ができ、合成洗剤の細かい泡がたっている。

 神田川を下り、JRお茶の水駅のホームから見下ろすあたりでは、ときどき、川底から大きな泡がボコッと上がってくる。川底のヘドロからでてきた硫化水素やメタンなどのガスなのだろう。このように汚れきった神田川の水はやがて隅田川に合流し、東京湾に流れ込む。

 だから、こうした汚れきった都市河川がたくさん流れ込む東京湾、それも湾奥部には、目に見える大きさの生き物などいないだろうという先入観が私にあった。そうしたなかで、十数年前に出会った中村征夫先生の著書『全・東京湾』(1987年、情報センター出版局)は、衝撃的だった。東京湾の湾奥部に潜って撮影された写真にカニや魚たちの生活が繰り広げられているではないか。

 この本を読んでいて、神田川の教材化の展望が少し見えてきた。江戸湾(昔の東京湾)は、江戸前の鮨という文化を育てた、魚介類と浅草海苔の漁場だった。そして、今では汚れきっている神田川も、江戸時代には下町の飲み水を供給する上水だったのである。神田川の水質を少しでも改善すれば、東京湾の湾奥部に細々と暮らす魚介類の世界がもっと豊かになる。このような方向で教材化を目指していけばよいのだ。まだ、完璧なものではないが、教材化は少しずつ進んだ。

 このようなこともあって、環境問題を海からアプローチする必要を感じていた。インタビューの相手は中村先生しかいないと思った。この要望に中村先生は快く応じてくれた。

 『全・東京湾』は、朝日文庫(2000年、朝日新聞社)で、読むことができる。元版はB5版だったので、写真はやや小さくなったが、それでも迫力がある。さすがである。中村先生は巾着型につぼまった東京湾らしさのある内湾、とりわけ一番奥の湾奥部にこだわっている。いわゆるヘドロの海である。『全・東京湾』はヘドロの海を舞台に海の生き物たちと内湾の魚介類の漁獲を生業(なりわい)にしている漁民たちを取材した、写真を多用したルポルタージュである。テンポのあるわかりやすい文章で、一気に読める。なお、東京湾の写真集は今、構想中とのことである。参考までに、『全・東京湾』の構成を紹介しておく。第1章 現住所は東京湾、第2章 湾一周、第3章 東京湾の漁法、第4章 東京湾人生、第5章 人と自然と東京湾、第6章 東京湾の魚は食えるか?の6章から構成されている。第1章でヘドロの海の生き物たちを紹介している。ぜひとも読み進めて欲しい本である。

 写真集では『海中顔面博覧会』(1987年、情報センター出版局)がおすすめである。このインタビューにも登場したクマノミ、オコゼ、カサゴ、ナポレオン(メガネモチノウオ)などの意外な角度から写した顔のクローズアップ写真が楽しめる。キャプションに意外性があって楽しい。写真の「題名」もうまい。

 このインタビューでは、環境問題のほか、中村先生が水中写真家として大成していく道のりもだいぶ語っていただいた。自分の生きる道を探し当てていくうえで大いに参考になると考えたからである。この部分を短くまとめた文章が『海も天才である』(1985年、情報センター出版局)の「プロローグ……海と出会って」にある。なお、『海も天才である』は角川文庫(1992年、角川書店)で読むことができる。『海も天才である』という書名は少し変わっているが、世界各地の海での魚や人との出会いを観察に基づいて書いたエッセイをまとめたものである。海のすばらしさをさまざまな角度から伝えてくれる。このインタビューの各所で、本書をきっかけに、中村先生に話していただいた。気にいったところから気楽に読めるとともに考えさせられることの多い本である。

 海のすばらしさ、海の大切さを実感するには、海に出かけることが何よりも大きな意味を持つと思う。しかし、海には危険が伴う。また、海へ漠然と出かけても、何をすればよいのかわからない。海とつきあうには一定の前提になる知識と方法が必要である。海の楽しみ方の基礎を教えてくれる本が『海の遊び方』(2001年、旬報社)である。中村先生の長年の経験と観察から導かれたていねいなガイドブックであるが、たんなるマニュアル本に終わっていないのがよい。この本を参考にして、海へ出かけてほしいと思う。

【目次】

1 日本の海ほどすごい所はない

潜りはじめて38年、訪れた国は74ヵ国
日本の海――東西南北の海がもつ魅力
海に四季あり

2 海の楽しさ、海の魅力

海の生き物は好奇心は強いが、絶対に人間に慣れない
なぜ海に潜るようになったか
生まれた瞬間にはもう食われている世界
けがをすると、あっという間に食われてしまう
愛情と生きるための知恵を見た
顔で決めちゃいけない――人も同じ

3 写真撮影から見えてくるもの

原点にあるのは子どものころの八郎潟の風景
子どもから離れて見守る精神
「海への貢献」ってなに?
おせっかいが多いよな、人間は
感性と技術だけでは写真は撮れない
写真を見せているわけではない、自分を見せている
職人という言葉にあこがれて
カラーよりもはるかに情報量が多いモノクロ写真
五色沼は宇宙

4 東京湾から環境を考える

ヘドロの海にたくましく生きる「海の特攻隊」
人々の目に東京湾は見えているか
海を守るためには干潟を見よう
忍び寄る「磯焼け」「海の砂漠化」
漁師は東京湾の魚介類にプライドをもっている
開発が人々を海から遠ざけている
埋め立てと浚渫――海は誰のものか
小さな自然にしょっちゅう出かけて遊ぼうよ
変な同情はやめようよ――タマちゃんのこと
世界的規模でのサンゴの死滅が心配

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